毎熊克哉×HIKARI監督 対談後編 – 映画は総合芸術 -

毎熊克哉

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 毎熊克哉による連載「毎熊克哉 映画と、出会い」は前回に引き続き、 『レンタル・ファミリー』のHIKARI監督が登場。“レンタル家族”をモチーフにした本作の話を入口に、何かを“演じる”という営みについて語っているほか、国際的に活躍する俳優の演技がもたらす印象、HIKARI監督の演出術にも言及している。

 日本とアメリカにおける映画づくりの違い、そして、HIKARI監督ならではの映画づくりとは何か。この「後編」では、その一端に触れることができるかもしれない──。

俳優として聞いてみたいことがあるんです。ブレンダンのように国際的なフィールドで芝居をしている人たちの圧倒的な違いって何なんでしょう?──毎熊克哉

これは即答できる。毎テイク演技が違うんだよね、ブレンダンたちは。──HIKARI:

──「前編」ではHIKARIさんが映画の道に進んだお話を入口に、俳優である毎熊さんと『レンタル・ファミリー』の接点についてお聞きしました。誰かと何かの関係性を演じるのは、すべてが嘘であり、本当のことでもあると。

HIKARI:うんうん、ずっと嘘をつき続けていたら、それがやがて本物になることだってあるもんね。レンタル家族というものが存在していて、必要とされているのって、日本ではセラピーのシステムが充実していないからじゃないかとも思うんです。

毎熊:というと?

HIKARI:たとえば、心に病を持っている人がいるとするよね。この人は誰かと話したがっていて、病院に行けば先生とは話せるかもしれない。でも先生と話すことができるのは、基本的にその精神的な病気のことや体調のことだよね。この人が本当に話したいのはそういうことじゃないのに。だからセラピストのところに行ければいいけど、レッテルを貼らせそうで、それが難しく感じたりもする。そうしたときにレンタル家族のような存在があると、もっと気軽に話しやすいんじゃないかな。劇中に登場する会社に似たものが、日本には本当にたくさんあるんだよね。

──そんなにですか。

HIKARI:レンタル家族の役割を担っている会社は、たぶん300くらいかな。これって、日本にはスナックがたくさんあるのに近いと思う。スナックはお金を払ってお酒を飲みながら話すところで、レンタル家族はクライアントの希望に沿って、対価と引き換えに話をしたり、ただそばにいてあげたりする。孤独感を和らげるためのものでもあって、なんだかすごく日本っぽいものだとも思うんだよね。劇中でブレンダンが演じるフィリップの本業が俳優であるように、役者さんがアルバイトでやっていることが多いみたい。

毎熊:そうなんですね。何が嘘で、何が本当か。レンタル家族の仕事と、それをやっている自分自身の現実の境目が分からなくなりそうで、それは危ういことだし興味深いことでもあります。

HIKARI:レンタル家族としての仕事外の時間でも、一緒に食事や旅行に行く人たちが増えてきてるみたいよ。

──金銭を介さない関係性に発展することもあると。

HIKARI:ひょっとしたらそういう関係性になっていく事だってあるかもしれない。もしそうなれたらそれは幸せやな。

毎熊:アメリカではどうなんですかね。こういったサービスの需要はあるんですか。

HIKARI:社会も価値観も違うからね。日本のこの安全で平和な感じって、アメリカの日常にはなかったりするもの。だから全く不可能ではないけど、難しいかもしれない。

毎熊:こうして聞いていると、たしかに日本特有のものというか、日本だからこそ存在でき、必要とされているものな気がしてきます。

HIKARI:そうだよね。すごく日本的だと思う。

毎熊:『レンタル・ファミリー』について、俳優として聞いてみたいことがあるんです。僕は日本国内で活動をしていますが、ブレンダンのように国際的なフィールドで芝居をしている人たちの圧倒的な違いって何なんでしょう?

HIKARI:これは即答できる。毎テイク微妙に演技が違うんだよね、ブレンダンたちは。でも日本の俳優さんたちは、毎テイク同じ演技をする人たちが多い。

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──その背景に何があるのか気になります。

HIKARI:日本とアメリカでは、そもそもの撮影の仕方が違いますからね。日本の俳優さんの演技には、フィルム文化の名残を感じたりもする。カチンコが打たれるのに対して、どのタイミングでお芝居をはじめるのかもそうだし、撮影後の編集のことを意識した演技をしている方が多い印象もある。でもそんなこと、役者は考えてお芝居するべきじゃない。

毎熊:“繋がり”はどうしても意識しちゃいますね。テイクごとに違うことをすると繋がらなくなるから。

HIKARI:前のテイクでは左手でグラスを持っていたのに、次のテイクで右手で持っていたら、それはさすがにスクリプターさんが注意するけどね。でも日本では、同じことを繰り返すべきだとされているというか、同じリアクションできっちり再現することを叩き込まれている印象がある。

──HIKARIさんが俳優に対して、カメラを回す前に何か特別に伝えていることはありますか?

HIKARI:時間をかけていいってことです。セリフをすぐに言えなくていいから、何を言いたいのか、何をやろうとしているのかを、まずは頭で考えてみてって。セリフとセリフの間にあるのが実はリアルな感情で。ブレンダンは間の取り方なんかもすごいんですよね。どのテイクも新鮮で、いま目の前で起きていることを見せられている感じがする。

毎熊:基本的に同じことをするというのが、役者の習性としてあるのを自覚しています。でもまさに僕も、自分が新鮮な状態であることを大切にしたい。なので、それを許容してくれそうな現場では、いろいろと試してみたりします。ロングショットとクローズアップだと、いくら同じ芝居をしていたとしても、まるで印象が違ったりもしますしね。

HIKARI:うんうん、そうだよね。それに日本とアメリカだと、カットの割り方と組み立て方も違ったりする。私は映画は総合芸術、アート”だと思っていて、現場は私と役者さんたちのコラボレーションの場だと思ってる。たどり着くべきゴールは決まっていても、その過程でどう踊るかは私たちの自由。だったら楽しいほうがいいよね。編集も楽しくなるはずだし。

毎熊:柄本明さんとブレンダンのシーンがすごく面白かったので、現場ではどうだったのかが気になります。柄本さんと対面でお芝居をしたことはないんですけど、何度かお会いしたことはあって。何を投げてくるか分からないイメージがあります。

HIKARI:ブレンダンと同じで、すごく自由。それでいて合わせるべきところは合わせてくる。さすがは超ベテラン。ブレンダンのお芝居を見て「彼はやっぱりスターだね」って言ってたけど、柄本さんこそスターだよね。今回ご一緒してみて強く感じたのは、カメラが柄本さんを大好きだということ。どこからどう撮っても絵になるし、その姿をレンズ越しにのぞいてみると、そこには自然と物語が生まれる。やっぱりすごいね。

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──あのおふたりのシーンには、すごく生々しさを感じました。演出をする立場として、HIKARIさんが大切にされていることって何でしょうか。

HIKARI:お芝居はキャッチボールやと思うんです。

毎熊:演技の基本ですね。でもこれが難しい。

HIKARI:そう。だから自分の表現にばかりこだわってしまったりするのはタブー。次に自分が口にするセリフのことを考えていて、目の前の相手の話をちゃんと聞いてないのも垣間見れる。相手の話を聞いているときの表情、相手に対して自然に出てくる表現が一番大切。

毎熊:ブレンダンと柄本さんのやり取りは、これが実現していて、それぞれの役同士の掛け合いとして成立していますよね。だからすごく自然で、面白い。

HIKARI:フィリップが父親役を演じる美亜っているでしょ。あの美亜役のシャノンちゃんはこれがはじめてのお芝居だったんだけど、とにかくアクティングスクールには行かないでって伝えてた。先生に演技を教わると、子役芝居が染みついちゃうから。やたら滑舌のいい話し方になったり。

毎熊:そういうイメージはありますね。

HIKARI:だからとにかく、まずはちゃんと相手の話を聞いて、ただ単にそれにリアクションをしてほしいと伝えたね。

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毎熊:まだ幼くて純粋な子供に演技を教えるのって、じつはけっこう危険なことだとも思うんですよね。それを日本ではお母さんがやっていたり。

HIKARI:そうなのよね。マジメな子ほどお母さんに教わったとおりのお芝居を現場でしちゃうから、それを限られた撮影時間の中で直していくのは難しい。是枝裕和監督の演出は素晴らしいよね。子供たちがどこまでも自由で。

毎熊:『レンタル・ファミリー』のシャノンさんのような伸び伸びとした演技をする人がいると、大人たちも自由になっていくんじゃないかと感じました。子供たちこそどんなボールを投げてくるか分からないから、こちらも柔軟でいなければならないだろうなって。

HIKARI:自由になるべきです。毎熊くんとのこの会話って、どう転がっていくのか、先の展開が分からないよね。これと同じで、映画ではセリフが決まってはいるけど、いまのこの感じを会話のシーンの中に生み出していかなくちゃならない。

──“生っぽさ”をどう演出していくか、ですね。

HIKARI:そう。言うのは簡単だけどね(笑)。

毎熊:HIKARIさんはこれが長編2作目ですが、今後の映画づくりにつながってきそうな、いま興味のあるテーマはありますか?

HIKARI:映画って、世界を平和にする力を持ってると思うんだよね。“平和”って言うとすごく大きいけどさ、人々の意識が少しづつ変わる事で、この平和というものにつながっていく気がする。嫌なことがあったら映画を観て元気を取り戻してほしいし、この映画を観て誰かのことを思い出したら、連絡してみてほしい。互いに手を取り合うことが、世界平和の第一歩やと思うから。

毎熊:そうですね。

HIKARI:フィリップはアメリカで生まれた白人やけど、日本に住んでいて、この国の人々のことをすごくリスペクトしてる。だからこそ、彼は他人の力になろうと一生懸命になるし、それによってフィリップ自身もまた助けられている。こういうハーモニーが生まれる作品をつくり続けていきたい思いがあるかな。

HIKARI
ひかり|監督
大阪出身。ダンサー、ミュージカルパフォーマー、画家、写真家としての経歴を持つ受賞歴のある脚本家、監督、プロデューサー。映画『37セカンズ』で長編映画監督としてデビュー。同作は第69回ベルリン国際映画祭でプレミア上映され、パノラマ観客賞、CICAEアートシネマ賞のW受賞の快挙を達成。最優秀新人監督賞にもノミネートされるなど世界的に高い評価を獲得した。テレビ作品として、エミー賞® 受賞シリーズ「BEEF/ビーフ」の第一話監督、「TOKYO VICE」などがある。第50回トロント国際映画祭で今最も注目されるクリエーターに贈られるEmerging Talent Awardを受賞し、名実ともに世界が注目する映画監督に名を連ねたほか、第76回ベルリン国際映画祭コンペティション部門の審査員も務めた。

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。主な映画出演作に『サイレント・トーキョー』(20/波多野貴文監督)、『猫は逃げた』(21/今泉力哉監督)、『冬薔薇』(22/阪本順治監督)、『世界の終わりから』(23/紀里谷和明監督)、『初級演技レッスン』(24/串田壮史監督)、『悪い夏』(25/城定秀夫監督)、『「桐島です」』(25/高橋伴明監督)、『安楽死特区』(26/高橋伴明監督)など。

『レンタル・ファミリー』
2月27日(金) 公開

『レンタル・ファミリー』(原題:Rental Family)
監督、共同脚本、プロデュース: HIKARI
出演:ブレンダン・フレイザー、平 岳大、山本 真理、柄本 明、ゴーマン シャノン 眞陽ほか
北米公開: 11月21日
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

撮影:西村 満
取材・文:折田 侑駿

毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。以降、テレビ、映画、舞台と幅広く活躍。主な映画出演作に『孤狼の血 LEVEL2』『マイ・ダディ』(21)、『猫は逃げた』『冬薔薇』(22)、『世界の終わりから』(23)、『初級演技レッスン』『悪い夏』『「桐島です」』(25)等。公開待機作に『安楽死特区』『時には懺悔を』が控えている。

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