毎熊克哉×HIKARI監督 対談前編 – モノづくりのルーツ - 2026.2.27
毎熊克哉による連載「毎熊克哉 映画と、出会い」に、 『レンタル・ファミリー』のHIKARI監督が登場。ブレンダン・フレイザーを主演に迎え、オール日本ロケで撮り上げた本作は、“レンタル家族”という職業に焦点を当てたヒューマンドラマだ。俳優として日本を活動拠点としているものの仕事のないフィリップ(ブレンダン)が、“レンタル家族”としてさまざまな事情を抱えた人々と出会い、特別な関係を築いていくさまを描いている。
この対談の「前編」では、毎熊が“俳優視点”で 『レンタル・ファミリー』をどのように捉えたのかについて語り、HIKARI監督が映画の道を歩むまでの過程について語っている。もともと面識のあったふたりの間で、いったいどのような言葉の交換がなされるのか──。
この心に残ったものが消えることはない。嘘なんだけど、嘘じゃない。──毎熊克哉
たとえ嘘だとしても、依頼主の心が一瞬でも和らぐんやったらそれでオッケー。──HIKARI:
──HIKARI監督との対談は、毎熊さんたっての希望でした。その理由からお聞きしたいです。
毎熊:『レンタル・ファミリー』が素晴らしかったので、そのお話がしたかったのはもちろんですが、映画監督としてここにたどり着くまでのHIKARIさん個人のことについて聞いてみたいと思ったんです。もともと面識はありますが、こういうかたちでははじめてですよね。HIKARIさんは監督になる前、僕と同じように自分の身体で表現したり、それから写真家でもありました。アメリカに渡る前から、歌やダンスなど、いろんな芸事をされていたんですよね?
HIKARI:うん、そうやね。何かしらのパフォーマンスをしたい気持ちが小さい頃からあったかな。『母をたずねて三千里』のアニメを観て泣いては、主人公のマルコになりきってみたり(笑)。小学校の学芸会や林間学校の出し物では、ダンスをやったり、オリジナル脚本の作品を上演したりもした。高校の体育祭では応援団長をやったりもしてたね。ずっとそういう感じ。
毎熊:それはやっぱり、自分の身体で何か表現をしたかったんですかね。それとも、モノづくりがしたかったのかな。
HIKARI:モノづくりやと思う。それと、グループを仕切るのが好きだったのかもしれない。
毎熊:でもアメリカに渡ってからは、表現の手法が写真になったりもしたわけですよね。人前に立って自分の声や身体で表現するところから、どんな経緯でカメラを構える側に移行したのかお聞きしたいです。
HIKARI:カメラマンの仕事に関しては、生活を繋いでいくための手段でもあったんだよね。まずは役者さんの宣材写真を撮るところからスタートして、ファッション系や、ミュージシャンのアーティスト写真も撮ったし、結婚式やお葬式、子供の出産の場面でもカメラを構えた。すべては生活を繋いでいくため。でもしだいに楽しさを覚えるようになって。
──楽しさがまさっていったと。
HIKARI:そうですね。あともうひとつの大きな理由は、29歳になった瞬間にCMのオーディションがほとんどなくなってしまったこと。20代の若いアジア人の子たちって、何かとチヤホヤされて重宝されるんです。でもこれが20代後半になると、ピタッと止まる。仕事がなくて困る。ネイティブの人たちに言葉では勝たれへん。そこでどうしようかとなったときに、何かをイチから勉強したいと思ったんだよね。それで、USC(南カリフォルニア大学)に入学願書を出した。30歳のときかな。
毎熊:映画づくりについて、日本で学ぶ発想はなかったんですか?
HIKARI:なかったね。あっちのCMの現場で出会った大好きな監督やカメラマンがいたし、あの時点でアメリカでの生活をはじめてもう13年くらい経っていたから、ここで日本に帰るくらいなら、もうこのまま突っ走るしかないやろって。そもそも窮屈さを感じて日本から飛び出したから。とにかく広いところに出て、世界を見たい。ずっとそう思ってるんだよね。そして卒業制作で『 TSUYAKO』(2011年)というショートフィルムをつくってみたら、世界中で評価をしてもらえた。これはちゃんと仕事として続けていけるかもしれないと思ったね。
毎熊:『37セカンズ』も『レンタル・ファミリー』もメインの舞台が東京で、僕らが日常的に目にしている街並みが収められていますよね。でも、なんだか違って見えるんですよね。よく知っている場所のはずなのに、知らないところみたいというか。
──たしかに、『37セカンズ』の繁華街も、『レンタル・ファミリー』に収められている下町も、実際に目にしているものとはちょっと印象が違います。
毎熊:すごく不思議なんですよね。
HIKARI:日本はどこにカメラを向けても絵になりますからね。でも、たしかに何でなんだろう。海外からやってきた撮影クルーが日本の人々の優しさを映像に収めようとしてくれているからだとは思うけど、具体的に説明をするのは難しいな。『レンタル・ファミリー』に関しては、一枚の画にとにかくたくさんの人が映り込んでいるショットを選んでいったかも。主人公はこの大勢の人々のうちのひとりでしかないのだと、観客のみなさんにそれとなく感じてほしくて。
©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
毎熊:なるほど。HIKARIさんの視点を介すると、あれだけ馴染みのある渋谷の街の風景も違って見えるから面白いです。ここで改めて、この『レンタル・ファミリー』のアイデアの種についてお聞きしたいです。
HIKARI:東京にやってきたアメリカ人の仕事として、“レンタル家族”というものがあるのを知ったのがはじまり。気になって調べていくうちに、やがてこの映画の種に出会った。亡くなる直前の男性が、娘さんに過去のことをどうしても謝りたいのだと。でも連絡も取れない状態で、直接は謝ることができない。そこで、レンタル家族として娘さんを雇って、謝ってから亡くなったそうなんです。
──実際にそういうお話があるんですね。
HIKARI:そうなんです。彼自身は人生の最期に納得ができて、移行することができた。本当はちゃんと会って気持ちを伝えられたらいいけど、それが物理的不可能な人だって大勢いる。たとえ嘘だとしても、依頼主の心が一瞬でも和らぐんなら、オッケーじゃないかって私は思ったんですよね。そこから、どんな人たちがこの仕事をしていて、どういう人々がこのサービスを求めているのかを探っていったんです。
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毎熊:僕ら俳優は芝居をするうえで嘘をついているわけで、作品づくりをとおして、この嘘を重ねているだけだともいえます。誰かと家族を演じるときもそう。でも撮影がすべて終わる頃にふと、「あ、そういえば家族じゃなかったんだ」と思うんですよね。つまり、すべては嘘なんだけど、自分の心で感じたことは全部が本当のことなんです。クランクアップして、また完全な他人同士に戻っていくのは、けっこう切ないものがありますね。
HIKARI:それは切ないし、寂しいやろな。
毎熊:寂しいけど、この心に残ったものが消えることはない。嘘なんだけど、嘘じゃない。俳優としてたくさんの人たちといろんな関係性を演じてきたからこそ、僕なりの『レンタル・ファミリー』との接点を見つけることができました。
HIKARI
ひかり|監督
大阪出身。ダンサー、ミュージカルパフォーマー、画家、写真家としての経歴を持つ受賞歴のある脚本家、監督、プロデューサー。映画『37セカンズ』で長編映画監督としてデビュー。同作は第69回ベルリン国際映画祭でプレミア上映され、パノラマ観客賞、CICAEアートシネマ賞のW受賞の快挙を達成。最優秀新人監督賞にもノミネートされるなど世界的に高い評価を獲得した。テレビ作品として、エミー賞® 受賞シリーズ「BEEF/ビーフ」の第一話監督、「TOKYO VICE」などがある。第50回トロント国際映画祭で今最も注目されるクリエーターに贈られるEmerging Talent Awardを受賞し、名実ともに世界が注目する映画監督に名を連ねたほか、第76回ベルリン国際映画祭コンペティション部門の審査員も務めた。
毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。主な映画出演作に『サイレント・トーキョー』(20/波多野貴文監督)、『猫は逃げた』(21/今泉力哉監督)、『冬薔薇』(22/阪本順治監督)、『世界の終わりから』(23/紀里谷和明監督)、『初級演技レッスン』(24/串田壮史監督)、『悪い夏』(25/城定秀夫監督)、『「桐島です」』(25/高橋伴明監督)、『安楽死特区』(26/高橋伴明監督)など。
『レンタル・ファミリー』
2月27日(金) 公開
『レンタル・ファミリー』(原題:Rental Family)
監督、共同脚本、プロデュース: HIKARI
出演:ブレンダン・フレイザー、平 岳大、山本 真理、柄本 明、ゴーマン シャノン 眞陽ほか
北米公開: 11月21日
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
撮影:西村 満
取材・文:折田 侑駿
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。以降、テレビ、映画、舞台と幅広く活躍。主な映画出演作に『孤狼の血 LEVEL2』『マイ・ダディ』(21)、『猫は逃げた』『冬薔薇』(22)、『世界の終わりから』(23)、『初級演技レッスン』『悪い夏』『「桐島です」』(25)等。公開待機作に『安楽死特区』『時には懺悔を』が控えている。