毎熊克哉×団塚唯我監督 対談後編 - 役づくりとつながり

毎熊克哉

前編はこちらから

 俳優・毎熊克哉による連載「毎熊克哉 映画と、出会い」は前回に引き続き、『見はらし世代』が話題の団塚唯我監督が登場。俳優と監督というそれぞれ異なる立場で映画づくりに臨むふたりが、この「後編」でさらに対話を深めていく。

役づくりって何なんでしょうか。僕は監督なのにまだよく分かっていなくて──団塚唯我

役の内面を掴んだり、つくっていくというのは、映画づくりと同じで一期一会だと思うんです──毎熊克哉

──「前編」では団塚さんの長編デビュー作である『見はらし世代』が話題の中心でしたね。

毎熊:映画は多くの人々の力の結集によって生まれるもので、『見はらし世代』もまさにそうなのだとお聞きしました。映画って創作のプロセスがすごく複雑ですよね。団塚さんはこうして映画という表現を必要とし、これを手段としても選んだわけですが、もしも映画以外の手段を選ぶことになったら何をしますか?

団塚:学生時代は、バンドサークルに入っていました。でもあれは趣味程度のものでしたから、映画に取って代わるような手段としては選ばないでしょうね。いっぽう、高校まで野球に打ち込んでいたのですが、僕はスポーツもある種の表現だと思っていたりするんです。

毎熊:うんうん、なるほど。

団塚:野球は団体競技であり、チームプレーが重要ですよね。これがけっこう、映画づくりにも活きている気がするんです。試合ごとにベンチ入りするメンバーが決まるわけですが、その人たちでなければならない理由が、そこにはあります。決してひとりではできない表現が、僕は好きなんだと思います。ちょっと答えになっていないかもしれません……。

毎熊:「前編」でもチーム(=座組)に関するお話がたくさん出ましたが、やっぱり団塚さんはひとりではなく、みんなで進んでいくのが好きなんですね。

団塚:そうですね。しんどいことも多いけど、目的を達成したときのあの感動はすごいものがありますし。

──『見はらし世代』はカンヌにも選ばれましたしね。

団塚:あれはもう、本当に盛り上がりましたよ。泣いて喜んでいる方もいて。この映画は僕の個人的な想いからスタートしたものですが、そこにいろんな人々の想いが重なっています。僕の個人的な体験を反映させた映画が、つくっているうちにみんなの映画になっていったんです。

毎熊:団塚さんの個人的な想いも、より高いところへと上っていく、みたいな。

団塚:そうです、そうです。海外のインタビュアーの方に「セラピー的な要素がある」と言われたのですが、僕自身にとってもそうなんですよね。この映画に関わってくださった方々、観てくださる方々に対しても、そんな効力があったら嬉しいです。

──毎熊さんはいま、さまざまな映画づくりの現場の一員であり、“演じる”という手段を取っていますね。

毎熊:そうです。でもこの連載では何度も言っていますが、もともとは映画をつくりたかったんですよ。

団塚:え、そうなんですね。

毎熊:だけどしだいに、自分の中に違和感が芽生えていきました。この違和感の正体が何なのかというと、自分の内側から外側に向けてブチまけたいような何かが、僕の中にうまく見つけられなかったということなんです。映画をつくりたいと思ってはいるものの、それはどこか漠然としたもので、自分の中にあるモヤモヤやヘドロみたいなものを吐き出すまでには至らなかった。映画監督には“我の強さ”が必要なのではないかという話を「前編」で少ししましたが、あの頃の僕には、この“我”が無かったんでしょうね。でも映画が好きだし、映画づくりの現場が好きだから、こうしていまは役者として携わっている。映画との関わり方としては、こっちのほうが向いていると感じています。

団塚:『「桐島です」』の主人公のような複雑な役どころを毎熊さんが演じるまでに、そういった経緯があったんですね。個人的にひとつ聞いてみたいのですが、役づくりって何なんでしょうか。僕は監督なのにまだよく分かっていなくて。いくら役を演じるとはいえ、毎熊さんは毎熊克哉という人間から逃れられないわけじゃないですか?

毎熊:役づくりというものを理解している監督は、たぶんひとりもいないと僕は思います。そもそも、僕自身も分かっていませんよ。

──それは具体的にどういうことなのか、非常に気になります。

毎熊:たとえば、「歯を抜いた」「10キロ増量した」みたいなフレーズが役づくりとして大きく取り上げられたりしますが、実際には大したことじゃないと思います。たしかにある意味、聞こえはいいのかもしれません。役を演じるためにどれだけ自分を追い込もうとしたのかが端的に分かりますしね。でも、歯医者に行けば歯は抜くことができるし、たくさん食べれば誰にでも増量はできる。筋肉をつけて身体を大きくするのも同じ。こういうのって役を演じるためのアプローチの一部に過ぎなくて、本当の意味での役づくりとは言えないんじゃないか。そう思うんです。役を生きることの本質とは、あんまり関係ないんじゃないかなと。

団塚:なるほど。役を演じるために実践した本当に大切なことは、観客には明かされないものなのだと。

毎熊:役の内面を掴んだり、つくっていくというのは、映画づくりと同じで一期一会だと思うんです。団塚さんが『見はらし世代』をみんなでつくり上げたと語るように、演じる役というのも、役者ひとりでつくるものではない。こうして目の前にいる相手や、周囲の人々、さらには環境があってこそ生まれるキャラクターというものがある。そう僕は思うんです。もちろん、ピアニストの役ならピアノを弾く練習をしますし、筋肉質なキャラクターならジムに通います。それは大前提です。

団塚:僕は今回の映画で、強く思ったことがあるんです。それは、僕はこの人たち(俳優陣)に何かしたのだろうか、ということ。実感としては何もしていないんですよね。だからこうして毎熊さんにちょっとお聞きしてみました。どんな役が生まれるのかも、チームあってこそなんですね。

毎熊:たとえば、『マッドマックス』みたいなザ・エンタメ作品だったら、また違う役との向き合い方があると思いますけどね。『見はらし世代』のように街の景色やそこに生きる人々の姿を収めた作品に、たぶんそういうアプローチは合いませんから(笑)。

団塚:毎熊さんは撮影中、カメラを意識しますか?

毎熊:意識はしませんが、無視もしませんね。カメラがどのポジションから、どういうアングルで、どんなサイズ感でこちらを狙っているのかは、ちゃんと把握して理解しておきたいです。芝居というのは監督とのセッションでもありますが、カメラマンとのセッションでもあると思っているので。自分のリズムを刻むだけじゃなくて、ともにシーンをつくる人々がどんなリズムを刻んでいるか、耳を澄ましてみる。すると美術や衣装などの捉え方も変わってきます。

団塚:その瞬間ごとに生まれるものを大切にされているんですね。面白いです。僕は現場で主演の黒崎くんに、「お芝居のつながりは気にしなくていい」と伝えていました。いまはまだ言語化するのが難しいのですが、厳密につながっている必要はないと僕は考えているんです。カットとカットの間には時間の飛躍があるわけですし、そこには無数の選択肢があるはずだと。

毎熊:それもまた、いかにチームの一員を信じるかということだともいえますね。

団塚 唯我
だんづか ゆいが|監督
1998年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学環境情報学部中退。映画美学校修了。在学中は万田邦敏や脚本家の宇治田隆史より教えを受ける。同校修了作品として制作した短編、『愛をたむけるよ』が、なら国際映画祭、札幌国際短編映画祭、TAMA NEW WAVE 等の映画祭で入選、受賞。2022 年、若手映画作家育成事業ndjc にて、短編『遠くへいきたいわ』を脚本・監督( 制作:シグロ)、第36回高崎映画祭等に招待。本作品『見はらし世代』が初長編映画となる。

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。以降、テレビ、映画、舞台と幅広く活躍。主な映画出演作に『孤狼の血 LEVEL2』『マイ・ダディ』(21)、『猫は逃げた』『冬薔薇』(22)、『世界の終わりから』(23)、『初級演技レッスン』『悪い夏』『「桐島です」』(25)等。公開待機作に『安楽死特区』『時には懺悔を』が控えている。

『見はらし世代』
2025年10月10日(金)
Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか 全国公開

黒崎 煌代
遠藤 憲一
木竜 麻生 菊池 亜希子
中山 慎悟 吉岡 睦雄 蘇 鈺淳 服部 樹咲 石田 莉子 荒生 凛太郎
中村 蒼 / 井川 遥
企画・製作:山上徹二郎 製作:本間憲、金子幸輔、長峰憲司
プロデューサー:山上賢治 アソシエイトプロデューサー:鈴⽊俊明、菊地陽介
撮影:古屋幸⼀ 照明:秋山恵⼆郎、平谷里紗 音響:岩﨑敢志 編集:真島宇⼀ 美術:野々垣聡
スタイリスト:小坂茉由 ヘアメイク:菅原美和子、河本花葉 助監督:副島正寛 制作担当:井上純平 音楽:寺西涼
制作プロダクション・配給:シグロ 配給協力:インターフィルム、レプロエンタテインメント
©2025 シグロ / レプロエンタテインメント

撮影:池村隆司
取材・文:折田侑駿

毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。以降、テレビ、映画、舞台と幅広く活躍。主な映画出演作に『孤狼の血 LEVEL2』『マイ・ダディ』(21)、『猫は逃げた』『冬薔薇』(22)、『世界の終わりから』(23)、『初級演技レッスン』『悪い夏』『「桐島です」』(25)等。公開待機作に『安楽死特区』『時には懺悔を』が控えている。

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