毎熊克哉×団塚唯我監督 対談前編 - 『見はらし世代』を生んだチームでの映画づくり 2025.10.17
俳優・毎熊克哉による連載「毎熊克哉 映画と、出会い」に団塚唯我監督が登場。初の長編作品となった『見はらし世代』が、第78回カンヌ国際映画祭の監督週間に日本人史上最年少で選出された、まさに新進気鋭の映画作家だ。
変わりゆく東京の都市の姿を背景に、家族の物語を描いた『見はらし世代』はどのようにして生まれたのか。この対談の「前編」では、本作の誕生秘話に迫っていく。
どのプロデューサーと組むのか、どんな座組で撮るのか。これによって映画はまったく変わってくる──毎熊克哉
『見はらし世代』には“父”の存在があって、この存在とどう向き合うのかが重要でした──団塚唯我
──毎熊さんと団塚監督は、『見はらし世代』の試写会ではじめてお会いしたそうですね。
毎熊:そうですね。ただ、お会いしたといっても、「どうもどうも」くらいなんですけど。でもあの一瞬のやり取りで、なんだか『見はらし世代』の主人公・蓮(黒崎煌代)とすごく似ていると感じました。映画を観終わった直後だったから、なおさらかもしれませんが。
団塚:それ、よく言われます。
毎熊:初の長編監督作って、すごく特別なものですよね。監督個人の持つ世界観が、おそらくもっとも色濃く出るのが初長編だと思っています。なぜこの作品を撮ろうと考えたのかをまず聞いてみたいです。
──変わりゆく都市の姿を背景に、家族の物語を描こうと考えた動機ですね。
団塚:脚本を書きはじめたのが23歳頃のことで、いまの自分に何が描けるのかを考えたときに、やっぱりまずは身近なものを、個人的なものをモチーフにしようと思ったんです。それが“家族”でした。18歳から一人暮らしをしていますが、それまではずっと家族と生活をしていましたからね。僕は年齢を重ねるうちに、家族というものに対する違和感が芽生えるようになりました。それに東京で生まれ育ったので、街の風景がどんどん変わっていくことに対する違和感もあった。このふたつの違和感を重ね合わせてみたら、面白い映画ができるんじゃないか。そう考えたんです。“家族”というとてもパーソナルなものと、“都市”という多くの人々に開かれた存在を重ねてみようと。
毎熊:家族に対する違和感というのは、どんなものなんでしょう?
団塚:まさに劇中で描いているようなものです。『見はらし世代』は息子の視点から家族関係や、彼の親である夫婦の関係が変わっていくさまを描いています。僕自身の父に対する感覚や、少し離れたところから両親を見ているときの感覚が、映画には反映されています。具体的な描写でいえば、冒頭の旅行のシーンなんかは実体験というか、幼い頃の僕が抱いていた感覚が、かなり強く反映されていると思います。せっかくの楽しい時間のはずなのに、どうもそういう空気にはならない……みたいな。映画ではここに、“喪失”というモチーフをさらに加えました。
毎熊:父親に対する感覚の変化は、なんだか分かる気がしますね。一番身近な存在でありながら、すごく遠い存在だと感じることが僕にもありました。当時の父と同じくらいの年齢になってみて、ようやく少しだけ理解できることがあったりもする。とはいえ幼い頃は知る由もないですよね。いくら幼い頃に抱いた感覚を客観的に捉えられるようになったとはいえ、こうして作品に落とし込めているのがすごいと思います。しかもかなり赤裸々というか。赤裸々だからこそ、とても生々しいのかな。そう感じました。
──いろんな“世代”についてのお話だとも思うので、『見はらし世代』というタイトルがまたすごくいいですよね。
毎熊:僕は上京してきて20年くらいになるのですが、凄まじいスピード感で変わっていく街の風景は、馴染み深いものを眺めているというよりも、どこか見晴らしているような感覚が僕にはあります。だから、この物語にしてこのタイトルは、とてもしっくりきます。言葉の響きもいいし。
団塚:英題は『BRAND NEW LANDSCAPE』で、仮タイトルの時点では『あたらしい景色』だったんですよ。でも撮影をしていくうちに、“景色”というワードがどうにもしっくりこなくなって。
毎熊:“あたらしい景色”という言葉自体が、なんだかあまり新しくない感じがしますね。
団塚:“BRAND NEW”というくらいなので、僕としてもできるだけより開かれたものにしたい思いがありました。時の流れとともに変わっていく物事との距離感や関係性を、短い言葉でどう表現するか。やがてたどり着いたのが『見はらし世代』です。劇中の登場人物たちは目の前の現実との折り合いをつけ、その先へと進んでいく。いろいろと悩みはしましたが、これにしてよかったなと。それに、“世代”とつけることで得られた広がりもあると感じています。映画の中身もタイトルも、この映画づくりの参加者がひとりでも違えばまったく別のものになっていた気がします。このチームだったからこそ、『見はらし世代』は生まれたんです。
──団塚さんのお話を聞いていると、いかにチームの存在が重要だったのかが伝わってきます。
毎熊:たしかに。とはいえ監督って、ときには“我の強さ”も必要じゃないですか。選択と決断を迫られる大変な瞬間がたくさんあって、そんな中で映画を完成に導いていかなくちゃならない。そのあたり、団塚さんとしてはどうですか?
団塚:どうなんでしょう……。撮影現場にはタイムリミットやさまざまな制約があるので、その中で最大限にこだわりますが、いろんな部署のスタッフさんたちのアイデアを採用した結果が映画に反映されているはずなので。でも、編集段階ではかなりこだわりましたね。
毎熊:編集には編集の難しさがまたありますよね。
団塚:過去の短編作品でもご一緒している真島宇一くんが編集で入ってくれています。彼と話し合いを重ねながら進めていったのですが、ここでもいろんな人の考えを反映させていますね。けっこう意見が割れたりもするんですよ。たとえば、ひとつのシーンを丸ごと落とすべきかどうか、とか。だからこだわったとはいえ、この段階でもチームの意見を大切にしていましたね。
毎熊:少ない視点で編集すれば早く理想の城が完成しそうなものですが、そうはしなかったと。
団塚:それこそ、世代が違えば見え方も変わるので、さまざまな世代の方の意見を取り入れることがこの映画には必要でした。やがて僕自身、いろんな考え方に柔軟にアジャストしていけるようになっていった気がします。幅広い世代の方々に観ていただきたいものですしね。
──編集段階でも重きを置いていたのは、やはりチームでの映画づくり。
毎熊:団塚さんはまだ20代ですが、『見はらし世代』が若い人の撮った映画だという感じがしなかったのは、そういうところが大きく影響しているのかもしれませんね。
団塚:この映画のプロデューサーは、これが初のプロデュース作になった山上賢治さん。そしてこの映画の企画・製作は、賢治さんのお父さんである山上徹二郎さんで、シグロの社長です。このふたりの関係が、ポジティブに作用したとも個人的に思っているんです。僕と賢治さんにとって『見はらし世代』は初の長編映画なわけですが、その上には徹二郎さんという大ベテランがいます。ある種の“父親的な存在”が君臨しているわけです。この映画が描いていることと映画づくりの環境が、けっこう似ているんですよ。新人監督の映画らしくないというのは、ちょこちょこ言われますね。
毎熊:そうなのか。なるほど。
団塚:それに僕の父も蓮の父と同じように、ランドスケープデザインの仕事をしている人です。なのでこの映画をつくるうえで、いろいろと協力してもらいました。『見はらし世代』には“父”の存在があって、この存在とどう向き合うのかが重要でした。そういう意味では僕の個人的な映画であり、シグロの映画でもあると思うんです。
毎熊:どのプロデューサーと組むのか、どんな座組で撮るのか。これによって映画はまったく変わってくる。改めてそう思います。
団塚:そうですよね。この映画づくりをとおして強く実感しました。誰かひとりでも欠けていたら、この『見はらし世代』ではなかったはずですから。
団塚 唯我
だんづか ゆいが|監督
1998年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学環境情報学部中退。映画美学校修了。在学中は万田邦敏や脚本家の宇治田隆史より教えを受ける。同校修了作品として制作した短編、『愛をたむけるよ』が、なら国際映画祭、札幌国際短編映画祭、TAMA NEW WAVE 等の映画祭で入選、受賞。2022 年、若手映画作家育成事業ndjc にて、短編『遠くへいきたいわ』を脚本・監督( 制作:シグロ)、第36回高崎映画祭等に招待。本作品『見はらし世代』が初長編映画となる。
毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。以降、テレビ、映画、舞台と幅広く活躍。主な映画出演作に『孤狼の血 LEVEL2』『マイ・ダディ』(21)、『猫は逃げた』『冬薔薇』(22)、『世界の終わりから』(23)、『初級演技レッスン』『悪い夏』『「桐島です」』(25)等。公開待機作に『安楽死特区』『時には懺悔を』が控えている。
『見はらし世代』
2025年10月10日(金)
Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか 全国公開
黒崎 煌代
遠藤 憲一
木竜 麻生 菊池 亜希子
中山 慎悟 吉岡 睦雄 蘇 鈺淳 服部 樹咲 石田 莉子 荒生 凛太郎
中村 蒼 / 井川 遥
企画・製作:山上徹二郎 製作:本間憲、金子幸輔、長峰憲司
プロデューサー:山上賢治 アソシエイトプロデューサー:鈴⽊俊明、菊地陽介
撮影:古屋幸⼀ 照明:秋山恵⼆郎、平谷里紗 音響:岩﨑敢志 編集:真島宇⼀ 美術:野々垣聡
スタイリスト:小坂茉由 ヘアメイク:菅原美和子、河本花葉 助監督:副島正寛 制作担当:井上純平 音楽:寺西涼
制作プロダクション・配給:シグロ 配給協力:インターフィルム、レプロエンタテインメント
©2025 シグロ / レプロエンタテインメント
撮影:池村隆司
取材・文:折田侑駿
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。以降、テレビ、映画、舞台と幅広く活躍。主な映画出演作に『孤狼の血 LEVEL2』『マイ・ダディ』(21)、『猫は逃げた』『冬薔薇』(22)、『世界の終わりから』(23)、『初級演技レッスン』『悪い夏』『「桐島です」』(25)等。公開待機作に『安楽死特区』『時には懺悔を』が控えている。