『見えない娘 THE INVISIBLES』毎熊克哉×野呂大介×宮川宗生×福田文香 鼎談 第2弾

毎熊克哉

 俳優・毎熊克哉による連載「毎熊克哉 映画と、出会い」の最新回は、スペシャル企画の第2弾。彼の主演作である『見えない娘 THE INVISIBLES』のプロデューサー陣が登場し、撮影までの道のりや、その背景について語り合っている。

 野呂大介、宮川宗生、福田文香の三者は、いったいどんな言葉を口にするのか。映画づくりの現場の“いま”と“これから”が見えてくる──。

鼎談 第1弾(前編)はこちら

──プロデューサー陣のご登場は本連載では初となります。

毎熊:そうなんですよね。来ていただいてありがとうございます。竹林さんとさえりさんとの鼎談が先に出るので、こちらではみなさんが『見えない娘』という作品とどう関わっていたのか、いろいろとお聞きできたら嬉しいです。一口に「プロデューサー」といっても、三者三様ですよね。まずお聞きしたいのは、みなさんがなぜこの業界に入ってきたのかです。

宮川:自分はホリプロ所属なのですが、もともと映画を撮りたかったんですね。かつては『ヒーローインタビュー』(1994年)なども製作していたし、この会社で映画を撮るんだって、入社面接の頃から熱弁していました。でも、入社して配属されたのはマネージャー。最初は愕然としてしまったんですけど、担当したタレントが映画愛に溢れる俳優たちで、映画界との繋がりを大切にしながら高いモチベーションでマネージャー業に打ち込んでいました。ただ10年を経てもやはり映画への熱は滾り続けていて、その想いの元、映像制作の部署に異動してから約10年になります。

毎熊:映画への情熱が消えることはなかったんですね。映画づくりにもいろいろありますけど、宮川さんがやりたいと思っていたのは、やっぱり監督だったんですか。

宮川:一番最初はハリウッドスターを夢見ていました。早川雪洲さんのような(笑)。でもそんな最中、当時憧れていた黒澤明監督と三船敏郎さんが亡くなり、色んな想いが交錯する中、自分が本当に志向しているのは演じ手ではなく、作り手なのかもしれないと気がつきました。それからは仰るように映画監督を目指しながらも劇団を立ち上げ、就職活動現場で劇団チラシを配っている中で実際に受けてみたホリプロに内定が決まり、先ほどお話したようにマネージャーになり、そして今はプロデューサーとして映画作りに携わっています。マネージャー時代は合間を縫って自主映画を撮って映画祭に応募したりもしていましたね。

毎熊:プロデューサーになるまでに、そんな経緯があったんですね。野呂さんと福田さんはCHOCOLATE Inc.(以下、チョコレイト)所属ですが、ここまでの道のりについてお聞きしたいです。

野呂:自分も例に漏れず、映画づくりがしたかったんですよ。でも、父の影響もあって大学は建築の世界に進みました。そうして大学院まで進んだんですけど、どうしても映像の世界のことが諦め切れず、CMの制作会社に入ったんです。以来20年、現在の会社に入るまではCMづくりに携わってきました。

──映画少年として目覚めた当時、どんな映画を撮りたいと考えていたんですか?

野呂:『ゴッドファーザー』(1972年)みたいな作品です(笑)。ちょっと現実味が欠けていますよね。でもおぼろげながら、そんなことを夢見ていました。実家のすぐ近くにとある映画監督のご自宅があって、弟子入りを直談判しようと考えていた時期もありましたね。

毎熊:でも実際にいまはこうして、映画の世界に身を置いていると。

野呂:チョコレイトで長編の劇映画をつくったのは『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』が最初なのですが、それまで僕はずっとCM畑にいたから、CMのつくり方しか分からない。同じ映像制作とはいえ、考え方から実務まで、何もかも違うんですよね。そこで紹介していただいたのが、宮川さんなんです。

毎熊:なるほど、そんな流れが。福田さんも映画づくりがしたかったんですか?

福田:私は幼い頃からずっと、物語の世界が好きでした。中高時代はミュージカル部でしたし、ドラマなども大好きで。それで最初はドラマづくりがしたいと思ってテレビの世界に飛び込んだんですが、最初の配属はバラエティ番組でした。

毎熊:バラエティ出身なんですね。

福田:そうなんです。バラエティはもともと好きだったので、とても楽しかったのですが、やはり物語づくりに携わりたいという思いがありました。それも、企画段階とか、コンテンツのもっとはじまりのところから関わりたい。そう思ってチョコレイトに転職したことが、現在のプロデューサー業に繋がっています。

毎熊:宮川さんと野呂さんとは、まったくルートが違いますね。しかも最初は演じ手側だったとは。とはいえ、モノづくりに惹かれていたのは同じですね。

──野呂さんと福田さんがチョコレイトに入った時期は違うんですか?

福田:私のほうが先輩です(笑)。

野呂:そう(笑)。自分が入ってきたとき、福田さんは『14歳の栞』(2021年)の絶賛編集中でしたよね。僕は前職の同僚でもあった竹林さんにこの映画のラッシュを見せてもらって、えらく感動しました。そして、僕にも映画をつくるチャンスがあるのなら、ぜひチョコレイトで働きたいと思ったんです。ことあるごとに、こうした出会いやご縁に恵まれていることを噛み締めています。初号試写のときなんかは、本当に込み上げてくるものが……。

毎熊:野呂さんって、ことあるごとに号泣していますよね。

一同:(笑)。

毎熊:僕がこの座組のみなさんとのクリエイションに参加したのはこれが最初ですが、いち観客として『MONDAYS』に出会ったとき、作り手たち一人ひとりの想いが乗っているのを感じました。そしてそこに惹かれたんです。劇映画なら登場するのは俳優だし、ドキュメンタリーだったら画面に映し出される対象があるわけですけど、その背景にあるみなさんのアツい想いを感じるんですよね。少年少女の夢のようなものに、映画をとおして触れることができる。だから今回の『見えない娘』は竹林映画でありながら、やっぱりチョコレイト映画だとも思うんです。

──宮川さんは外部から参加している立場にありますが、クリエイションにはどのように関わるのでしょうか。『MONDAYS』の途中から参加されたとのことですが、『見えない娘』の種が生まれたのは、それよりも前のことだと聞いています。

©THE INVISIBLES Production Committee

宮川:そうですね。自身『14歳の栞』に感銘してチョコレイトさんに赴いて、そのご縁で。おふたりと出会ってから、ほかにも進めている企画があるとお聞きして、そちらもぜひご一緒しましょうとなったのが2021年の秋頃のこと。『MONDAYS』を乗り越えて以降、ともにここまで歩ませていただいています。

福田:脚本を適宜お渡ししては、いろんな意見をいただきましたよね。

宮川:外部の人間であるというある種の自分の特性を、強みにしたいと考えていました。チョコレイトのみなさんが熟考したうえで自分のところに脚本が回ってくるので、できるだけフラットかつ客観的な視点で向き合いたいなと。自分としてはそういうところを大切にしていましたね。

毎熊:同じメンバーだけで議論を重ねていると見逃してしまいそうなものに、宮川さんの視線が注がれていたんですね。そんな宮川さんの目に、野呂さんと福田さんの姿はどう映っていたんでしょう。

宮川:おふたりとも、映画づくりへの向き合い方に嘘がありません。それぞれにいろんな苦労があったと思うのですが、想いの純度を高く保ったまま、いまこの瞬間も走っているんです。自分も臆することなく正面から向き合って、同じだけの熱量で返していこうと思ってきました。

──こうやって改めて語りの場を設けると、いいお話が聞けますね。

毎熊:そうですね。時間のかかる映画づくりにおいて役者が関わるのは、じつはごく短い部分だったりしますから。それで言うと、プロデューサーであるみなさんの立場から、僕の知らない『見えない娘』のピンチについてお聞きしてみたいです。

野呂:撮影を延期することになったときはピンチでしたね。ストーリーを考えていくにあたってチームのみんなで勉強会をするのですが、竹林さんとさえりさんが描きたいものが明確になればなるほど、作品のスケール感が掴めてきます。そしてこのスケール感がその時点での自分たちには難しそうな場合、さらに準備期間が必要となる。延期というのはひとつの壁でもありますが、やるべきことがハッキリする瞬間でもありますね。

©THE INVISIBLES Production Committee

毎熊:予算やスケジュールの問題は役者にも関わってくるものですが、プロデューサーの立場だと本当にシビアな問題ですよね。この作品にかぎらず、みなさんはそういった問題とつねに向き合っていかなくちゃならない。改めてそのことを知れただけでも、このお話の機会を設けたことの意味がある気がします。

野呂:現場がはじまってしまえば、意外と乗り切れたりもするものなんですけどね。でも、それではダメ。撮影に入る前に福田さんが、「このままだと失敗しますよ」と言っていたのが印象に残っています。

福田:え、私は絶対にそんなこと言ってないです!(笑)

野呂:絵コンテまわりの話ですよ。監督のイメージを具現化させるためには、絵コンテが重要になります。これがないと、どうしても現場でのトライアンドエラーが多くなってしまう。CMならかぎられた時間でも用意できますが、110分の長編映画のコンテとなると話は別です。でもこれを実現しようとすると、どうしたって時間が足りない。そこで福田さんが「このままで大丈夫ですかね」って。

福田:言い方がまったく違うじゃないですか……。

毎熊:ニュアンスが違いますね(笑)。

福田:私はとにかくプリプロが大切だと思っています。映画づくりではプリプロにこそ時間をかけたい。ただ、どうしてもここの時間が削られがちですよね。絵コンテは、竹林さんが合間を縫って急いで描いてくださったんですが、今後はもう少しゆとりを持って準備できたらと思っています。
アイデアが現場で生まれていくことの面白さももちろんある一方で、今回、絵コンテがあったことで現場での判断がしやすかったり、みんなでイメージを共有しやすかったりして、改めて、事前に監督が求めている絵のイメージや設計をしっかりすり合わせておく時間って、やっぱりすごく大事だなと感じました。

毎熊:芝居をする役者の立場からしても賛成です。もちろん、事前に決め込まずにその場で生まれるものを拾っていく面白さもありますが、監督が何を撮ろうとしているのかを汲み取って、そこに役者としての自分の表現を乗せるやり方もある。監督と撮影部のみなさんの話し合いに役者が混ざることは基本的にないと思いますが、僕は盗み聞きしているんですよ(笑)。僕らは基本的に自分の声と肉体で表現をしますが、どう表現すべきかの設計は頭で考える。事前に知ることができたら、演技の選択肢も広がると思うんです。

福田:ですよね。

野呂:どれくらいの予算で映画づくりをするのかではなく、目指す映画づくりに合わせて予算が捻出されるべきだと個人的には考えています。だから具体的にどういうふうに予算を使おうとしているのか、プロデューサーである僕らがもっと言葉にしていく必要性を感じています。

──みなさんのお話に触れて、映画を観るときの視点が増えたように思います。宮川さんとしてはいかがですか?

宮川:身につまされるお話ですよね……。理想と現実のギャップに、いつももどかしくなります。今日明日で変わるものではないですが、出来る限り大きな視野で見つめて、向き合っていかなくちゃいけないかなと思います。

毎熊:まだまだ時間はかかると思います。でも、少しずつ変わってきているのは間違いありません。

福田:現場に携わる一人ひとりが、それぞれの改善すべき目標を掲げて、理想と現実の間でもがいていると思います。でも実際のところ、変えたい気持ちはあっても、現実的な手段を選ばざるを得ないとも思うんです。数字だけ見ると不要に思えるものでも、それが創作環境に、ひいては作品にどんな影響を与えているのか。もっと考えていきたいです。

毎熊:みなさんの“見えない仕事”があってこそ、役者である僕らの“見える仕事”がありますね。

宮川:毎熊さんは、作品ごとに本当にいろんな顔をのぞかせて下さいます。その軸には毎熊さんご自身の人間性があるのだと、今日のこの場で改めて触れることができました。そんな毎熊さんが現場に入る際、ブレることなく意識していることがあればお聞きしてみたいです。

毎熊:やっぱり、一期一会ですかね。竹林さんを筆頭に、こうしてご一緒したみなさんとは知れた仲ですが、同じ座組でまた映画を撮ることになったならば、そこにも新たな「出会い」があると思うんです。なぜこの座組で映画をつくるのか。僕が手にした脚本に綴られている物語は、いったい何を訴えようとしているのか。そして自分はここで、何をすべきなのか。大切にしているのはそんなことですね。

野呂 大介
のろ だいすけ|プロデューサー
CM制作プロダクションで20年近く広告映像制作に携わった後、2019年にCHOCOLATE Inc.に入社。
入社後は、広告映像以外にYouTube短編映画『ハロー!ブランニューワールド(動画名:もう限界。無理。逃げ出したい。)』、リモート演劇「BestFriends.com」、2025大阪万博 シグネチャーパビリオン「いのちの未来」ZONE2「50年後の未来」などにプロデューサーとして携わる。映画は、竹林監督の『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022年公開)に続き、本作が2作目。

宮川 宗生
みやがわ むねお|プロデューサー
2004年株式会社ホリプロ入社。15年までマネジメント事業部で俳優女優のマネージャーを務め同年に映像事業部異動。以降映画、ドラマ、ドキュメンタリーなどを手掛ける。21年ドラマ『ホメられたい僕の妄想ごはん』が日本民間放送連盟賞優秀賞を受賞。映画では『FOR REALベイスターズ、クライマックスへの真実。』『白爪草』『浜の朝日の嘘つきどもと』『Bittersand』『朽ちないサクラ』『A DOCUMENTARY FILM OF LOSTAGE -ひかりのまち、わたしたちの-』『架空の犬と嘘つく猫』など。

福田 文香
ふくだ ふみか|プロデューサー
テレビのADを経て、2018年にCHOCOLATE Inc.に入社。
入社後は、ショートフィルム、ショートアニメーションシリーズ、映画などストーリーを軸とした映像制作に携わる。映画では、竹林監督作品の『14歳の栞』(ドキュメンタリー・2021年公開)、『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(劇映画・2022年公開)、『大きな家』(ドキュメンタリー・2024年公開)の3作を担当。2026年にはロッテルダム国際映画祭のロッテルダムラボに参加。

毎熊 克哉
まいぐま かつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。『「桐島です」』(25)では第35回日本映画プロフェッショナル大賞、主演男優賞を受賞。主な映画出演作に、『猫は逃げた』(21/今泉力哉監督)、『世界の終わりから』(23/紀里谷和明監督)、『初級演技レッスン』(24/串田壮史監督)、『悪い夏』(25/城定秀夫監督)、『安楽死特区』(26/高橋伴明監督)等。8月『時には懺悔を』(26/中島哲也監督)、11月『月がみている』(渡邉直子監督)、12月『雨のエトランゼ』(城定秀夫監督)の公開が控えている。

『見えない娘 THE INVISIBLES』
2026年8月28日(金)全国公開

もしも、生まれた娘が透明人間だったら?
とある島で、ひっそりと暮らす父と三姉妹の家族。
この家族には、ちょっと変わった秘密があった。
それは、末娘のひかりが生まれつき“透明人間”であること。
娘たちを朗らかに育てた母親が亡くなった後、
心配性の父は、三姉妹を人目から隠すように暮らしていた。
そんなある日、東京で暮らす大女優の祖母が入院したという知らせが入る。
祖母に、ひかりが透明人間であることを打ち明けられないまま、家族は東京へと出発することに。

毎熊克哉 鈴木凜子 近藤華 矢山花 寺島進 余貴美子
友近 濱田祐太郎 宇野祥平 円井わん 浅沼晋太郎 坂口涼太郎 板尾創路 加藤雅也
映美くらら

監督:竹林亮
企画・脚本:夏生さえり・竹林亮
音楽:大木嵩雄 撮影:幸前達之 照明:久保田圭 録音:大高真吾 美術:村中晶子
装飾:矢垣奈苗 操演:川口謙司 衣裳:飯間千裕 Makeup Designer:MARI
編集:小林譲/竹林亮 VFXスーパーバイザー:小木曽功治 音響効果:西川良
カラリスト:平田藍 監督補:徳山武昇 助監督:國領正行
ラインプロデューサー:関原崇将 プロデューサー:野呂大介・柳井望・小林遼・福田文香
アソシエイトプロデューサー:宮川宗生・加島貴彦
宣伝統括:市川晴華・松下加奈 宣伝プロデューサー:水口達己
パブリシティ:小野典子 PR:坂本舞・樋口あるの・櫻井愛莉
主題歌:くるり「ばらの花」 作詞・作曲:岸田繁 編曲:くるり SPEEDSTAR RECORDS
STORY by TAKE C
企画・制作:CHOCOLATE Inc.
製作:CHOCOLATE Inc. PARCO 東急エージェンシー
配給:PARCO CHOCOLATE Inc.
©THE INVISIBLES Production Committee

撮影:西村 満
取材・文:折田 侑駿

毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。以降、テレビ、映画、舞台と幅広く活躍。主な映画出演作に『孤狼の血 LEVEL2』『マイ・ダディ』(21)、『猫は逃げた』『冬薔薇』(22)、『世界の終わりから』(23)、『初級演技レッスン』『悪い夏』『「桐島です」』(25)等。公開待機作に『安楽死特区』『時には懺悔を』が控えている。

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