『LOST LAND/ロストランド』毎熊克哉×藤元明緒監督 対談後編 2026.5.8
俳優・毎熊克哉による連載「毎熊克哉 映画と、出会い」は前回に引き続き、『LOST LAND/ロストランド』の藤元明緒監督が登場。この「後編」では毎熊が改めて本作の魅力を語り、ふたりの対話は映画作品における“リアリティ”をめぐるものへと進んでいく。
そうしてやがて話題は、困難な状況に立ち向かう人々の姿を描いてきた藤元監督が思う、“エンターテインメントの力”のほうへ──。
ずっと藤元さんのギャップにやられています──毎熊克哉
もともと純粋に好きだというのもありますが、エンタメ作品こそ必要だという気持ちが年々強くなってきています──藤元明緒
──「前編」では藤元監督の意外な一面が明らかになりました。
藤元:意外なんですかね。僕はマンガが大好きなんですよ。いつかマンガ原作の映画を撮ってみたい。
毎熊:ずっと藤元さんのギャップにやられています。こうしてお話ししていて見えてくる藤元さんの一面と『LOST LAND/ロストランド』は、やっぱりどうしても結びつかないんですよね。もちろん、人には人の、いろんな側面があることは理解してますけど。
──ここで改めて、毎熊さんの思う本作の魅力についてお聞きしたいです。
毎熊:それは何といっても、つくりものだとは思えないところですね。ドキュメンタリーではなく劇映画だけど、いわゆるフィクションとは質感が大きく違う。演技が演技に見えないし、映像に収められているすべてのものが、あらかじめ用意されたものだとは思えない。ロヒンギャ難民の人々の困難を描いたテーマもそうですが、人間にカメラを向ける藤元さんの手法もまた、日本の作品だとあまり出会ったことがない気がします。主人公のソミーラとシャフィの姉弟は、取材の途中で出会ったんですよね?
藤元:そうです。ただ、もともとは10代半ばの兄弟の物語を構想していたんですよ。これは難民である子供たちが過酷な旅をするものなので、この旅を乗り越えられるだけの肉体を持った存在となると、それくらいの年齢の男の子たちになるかなと。そう考えていました。でも、当時4歳のシャフィと出会ったときに、絶対にこの子だと思ったんです。マレーシアに向かい、いろんな人々の手によって運ばれていく物語になったのは、すべては彼がいたからです。
©2025 E.x.N K.K.
毎熊:なるほど。これが10代半ばだと、だいぶ物語は変わってきますね。子供だとはいえ、自分でできることが増えるだろうし、こちらとしてももう少しくらいは安心して見ていられるかもしれない。幼いシャフィの一挙手一投足に、かなりヒヤヒヤさせられましたから。
藤元:ほんと、そのとおりです。
──そこからどうして、お姉さんにも出てもらうことになったのでしょう。
藤元:シャフィの家を訪ねたら、お姉ちゃんのソミーラが出てきました。すごく迷いましたよ。シャフィだけにお願いするか、姉弟ふたりに出てもらうか。かなり時間をかけて悩んだのを覚えています。そうして気がつきました。4歳の子供ひとりだと無理があるって。まだ幼すぎるから、衝動的に行動してしまうと旅が続かないだろうと思ったんです。
毎熊:たしかに。それにお姉さんも素晴らしいですしね。
藤元:はじめて会ったときから逸材の匂いを感じていました。そして何より僕は、このふたりの関係性に惹かれたんです。すごくキラキラしていて。
毎熊:映画の中だけじゃなくて、実際の関係がそうなんですね。
藤元:僕はこのファーストコンタクト時にカメラを向けたのですが、それらしいリアクションがありませんでした。「イエーイ!」となることがなければ、緊張して硬くなることもない。驚くほど自然体なんです。これは絶対にいけると確信しました。
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──劇中に見られる“自然さ”の秘密ですね。
毎熊:ふたりが旅の途中で捕えられて、人間の露骨な暴力を目の当たりにするシーンがありますよね。あそこがすごい。何のリアクションもしていないわけじゃないんですけど、でも何もしていないといえば何もしていない。日本で同じ年頃の子役が演じたら、絶対に何かやると思います。いや、子役だけじゃないですね。大人だってそうかもしれない。でもあのふたりは目の前の状況をただ見ているだけなんですよね。
藤元:はい。
毎熊:このシーンを観たときに、これまでふたりがどんな環境で過ごしてきたのか、思いを馳せました。そして役者である僕は、こうしたすごい瞬間に触れるたび、「演技って何だろう?」と思うわけです。ふたりは用意された設定の中で演じているはずなのに、演技だとは思えない。いっぽうの自分は、いつも演じているなあと。改めてそう感じたんです。
藤元:難しいところですよね。でも、すべては状況しだいなので、場合によっては演技をしていることこそ魅力的に映ったりもするじゃないですか。
毎熊:そうですね。作品ごとに、登場人物ごとに、リアリティのラインって変わってきますもんね。設定や状況、作品の世界観に合わせた演技を僕は選びますが、もしも『LOST LAND/ロストランド』のジャングルのシーンに登場したとしたら、どれだけ作品に寄せようとしても絶対に不自然なはず。ソミーラとシャフィがあのトーンのまま日本の劇映画に登場したならば、それもまたかなり浮くだろうし。リアリティって難しいですね。
藤元:観客の思うリアリティと映画の中のリアリティって、まったく別物ですよね。僕らは現実世界を再現したいわけじゃない。どうすれば観客がリアルだと感じてくれるのか、ここで演出の力が試される。どれだけやっても難しさは尽きないし、ここにこそ映画の面白さがあると感じます。
毎熊:この映画にリアリティを感じるかどうかは、いまの時代や社会をどう捉えているかも関わってきそうです。終戦から80年以上が過ぎたいま、僕には住む家があって、満足に食事ができて、着たいものを身につけられている。でもそのいっぽうで、この状況が果たしていつまで続くのか分からない。そんな不安を覚えている人は僕だけじゃないはず。自分たちがいつどこかの誰かから、暮らしを奪われる可能性がないともいえません。
藤元:毎熊さんの言うとおりだと思います。
毎熊:そうした状況の中で出会った『LOST LAND/ロストランド』は、決して遠くのお話ではない。そう感じています。
藤元:ソミーラもシャフィも、日本の子供たちと変わりませんからね。そのことが日本の観客のみなさんにも伝わってほしいです。
毎熊:こうしてお話ししていても感じることですが、藤元さんの作品は難しい問題を描きながらも、変に“社会派”を気取ったり、押しつけがましくないところも素敵だと感じています。ソミーラとシャフィに寄り添うことを、何よりも大切にされている印象です。
──同感です。藤元さんはいつかマンガ原作の映画も撮ってみたいとのことですが、それはどんな映画なのでしょうか。
藤元:アクション系です。
毎熊:アクションですか。
藤元:思い切って名前を出しちゃうと、『東京喰種トーキョーグール』とか。原作の大ファンなんですよ。映画化されたときには「やられた」と思いましたね。でもたぶん、ああいったタイプの作品の企画のオファーは、僕のところにはやって来ないでしょうけど……。
毎熊:そうですね……いまのところは来なさそうな……。いまのところは、ですよ(笑)。それこそこの手の映画は、これまでの藤元さんの作品とはまた違うリアリティをつくっていくことになるんでしょうね。どんなものになるのか、すごく気になります。
藤元:これまでの経験を活かしたいですね。自分でも、まったく新しい映画が生まれそうな気がしています。
──藤元さんはなぜ、『LOST LAND/ロストランド』のような映画をつくりながら、エンタメ作品に惹かれているのでしょう。
藤元:もともと純粋に好きだというのもありますが、エンタメ作品こそ必要だという気持ちが年々強くなってきています。エンタメ作品こそ、広く遠くまで届くものじゃないですか。なぜこう考えるようになったかというと、クーデターでミャンマーが大変なことになったとき、その様子を記録するために友人が戦場に行ったんです。そして、長いことジャングルで過ごした彼と再会したときに、こう言われたんですよ。「YOASOBIの音楽や、Netflixのドラマに勇気づけられた」って。
毎熊:そうなんですね……。
藤元:日々恐怖と戦う人々に、僕の映画は届いていない。この気付きが大きい。エンタメの必要性を痛感しましたね。とはいえ、次の作品で描こうとしているのも、現代の困難に立ち向かう人々の物語です。僕自身が生きる中で実感を持って捉えたテーマに、再び挑むことになりそうです。
藤元明緒
ふじもとあきお|監督
1988年、大阪府生まれ。ビジュアルアーツ専門学校大阪で映画制作を学ぶ。在日ミャンマー人家族を描く初長編『僕の帰る場所』(2018年)が第30回東京国際映画祭アジアの未来部門 作品賞&国際交流基金アジアセンター特別賞を受賞。2021年、ベトナム人技能実習生を描く長編第二作『海辺の彼女たち(日本ベトナム国際共同製作)』を公開。同作品はPFF第3回「大島渚賞」、2021年度「新藤兼人賞」金賞、第13回TAMA映画賞最優秀新進監督賞、第31回日本映画批評家大賞・新人監督賞などを受賞。主にミャンマーなどアジアを舞台に合作映画を制作し続けている。
毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。主な映画出演作に『サイレント・トーキョー』(20/波多野貴文監督)、『猫は逃げた』(21/今泉力哉監督)、『冬薔薇』(22/阪本順治監督)、『世界の終わりから』(23/紀里谷和明監督)、『初級演技レッスン』(24/串田壮史監督)、『悪い夏』(25/城定秀夫監督)、『「桐島です」』(25/高橋伴明監督)、『安楽死特区』(26/高橋伴明監督)など。8月『見えない娘』(竹林亮監督)の公開が控えている。
『LOST LAND/ロストランド』
4月24日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、kino cinéma 新宿、ポレポレ東中野ほか全国ロードショー
脚本・監督・編集:藤元明緒
予告編ナレーション:河合優実
出演:ムハマド・ショフィック・リア・フッディン、ソミーラ・リア・フッディン 他
撮影監督:北川喜雄/音響:弥栄裕樹/カラリスト:ヨヴ・ムーア/音楽:エルンスト・ライジハー/助監督:川添ビイラル/撮影助手:吉田寛/水中撮影:河瀬経樹/DIT:香月綾
エグゼクティブプロデューサー:國實瑞惠、安川正吾/プロデューサー:渡邉一孝/共同プロデューサー:スジャウディン・カリムディン/コンサルティング・プロデューサー:エリック・ニアリ/宣伝プロデューサー:伊藤敦子
企画・制作:E.x.N/製作:E.x.N、鈍牛倶楽部、キネマトワーズ/共同製作:PANORAMAFilms、Elom Initiatives、Cinemata、Scarlet Visions
特別協力:シネリック・クリエイティブ/配給:キノフィルムズ/宣伝:ミラクルヴォイス
©2025 E.x.N K.K.
撮影:西村 満
取材・文:折田 侑駿
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。以降、テレビ、映画、舞台と幅広く活躍。主な映画出演作に『孤狼の血 LEVEL2』『マイ・ダディ』(21)、『猫は逃げた』『冬薔薇』(22)、『世界の終わりから』(23)、『初級演技レッスン』『悪い夏』『「桐島です」』(25)等。公開待機作に『安楽死特区』『時には懺悔を』が控えている。